
【注意】フリクションペンは縫製工場で使うとトラブルの原因
数年前からPILOT社製のフリクションシリーズのペンをチャコの代わりに使うことで、アパレル製品にトラブルが起きています。フリクションシリーズといえば、書いたものをゴムのような部分でこすることで、摩擦熱によって消すことができるとても便利な筆記用具で、自分も愛用しています。60℃程度の温度で消えるという特性から、アパレル生産の仕上げで必ず行うアイロン工程で簡単に無色透明になります。生地に書いた印など、全く痕跡を残さず消すことができてしまいます。もしこれがこのまま完全に消えてしまうのであれば、アパレルの生産にも非常に便利なアイテムとなっていました。この記事では、フリクションペンをアパレル生産で使用してしまったことで実際に起こったトラブル事例をもとに、対処方法や実際に掛かったコスト、今後の危険性について詳しく解説していきます。

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アパレル生産でフリクションを使用して起こったトラブル事例
パイロット社のフリクションシリーズは2007年から発売され、2010年以降くらいにアパレル生産でのトラブルが起き始めました。熱で消えるなら、従来から使われているチャコよりも簡単に使えるということに目を付けた資材屋さんも縫製工場に対して売り込むケースがあったようです。印をつけることで早く正確に縫製しやすくなるポケット位置や、できるだけ正確に縫い付けたい衿周りなどに使われました。アイロンの熱で無色透明になるのであれば、仕上げの際に印は必ず消すことができるということは、チャコのように印の落とし忘れをチェックする必要がなくなると考えられたということです。

最初に経験したのは日本国内の縫製工場にて生産したポロシャツにトラブルが発生。生産は滞りなく終わり、むしろ納期に対して非常に余裕を持った生産ができました。サンプルのチェックも完了して本生産分は物流倉庫に送られます。物流倉庫での抜き取り検品も問題なく、そして納期にあわせて出荷できるように万全の準備が完了していました。
トラブルは先方の倉庫に着荷した時に発覚してしまいました。内台衿にペンで書いたような線が浮き上がっているのが見つかったのです。生産したポロシャツは先方倉庫に出荷するまで約2週間、物流倉庫に保管していました。その期間の間にフリクションペンを使用した部分に印の跡が浮き上がってしまったのです。
PILOT社様の公式ホームページではマイナス10℃前後で色の復元が開始し、マイナス20℃で完全に色が戻る特性があると説明されています。しかし当時の製品の保管場所は大阪の倉庫だったので、せいぜい0℃前後だったはずです。問い合わせしたところ乾燥(湿度)することも関係しているということだったので、どのような条件で顕在化するかは、なかなか確実性のあるコメントはできないそうです。

パイロット社のページでは-10℃から色が戻るって書いてる。
保管倉庫は大阪だったから、そこまで低温にはなってないはず・・・
実際に問い合わせると、乾燥なんかも色が戻る原因なんだとか・・・
はっきりした条件が分からないから、やっぱり使わない方がいいね。

このトラブルが発覚した場合のポイント
フリクションによるトラブルのポイント
- 顕在化していない部分があるかもしれないが、常温で確認できない
- 洗濯しても落ちたかどうかは、冷やしてチェックしなければならない
- 溶剤で落とすことができるが、乾かす際のドライヤーの熱で消えている可能性も
- インクが落ちたかの確認もコールドスプレーが必要
- 本当にインクが落ちたのか?判断が困難

このトラブルに関して問題なのは、アイロン仕上げで無色透明になってしまっているため、あらゆる検品・チェックを完全に素通りしてしまうことにあります。インクを落とす作業をしたとしても、【本当にインクが落ちたのか?】確認するのに非常に時間と手間が掛かってしまうことにあります。
さらに注意すべき事例
- コインランドリーで洗濯・乾燥機。見えなくなったが、冷やしたらインクが浮き上がった
- ドライ系の溶剤でも一回では落ちない。確認はコールドスプレー必要
- 他の部分にもフリクションを使用していないかの疑い
- 本来は縫製に必要ない箇所でも印があった(消えるという思い込みで安易に使用している)
実際に行ったフリクション使用トラブルの対処作業
step
1フリクション使用箇所の確認
⇒コールドスプレーを製品全体に吹き付け 何枚かで使用箇所を特定する
step
2インク落とし
⇒シミ抜き用のスプレーで落とす。 さらにコールドスプレーで確認
枚数が少なければ、上記の通り1枚を確認後に全数同じ作業を行う。
枚数が多い場合は数例の対処方法と所要時間を確認後に、対処方法を確定してから残りを進めた方が良いです。このトラブルは「見えない」ということが非常にネックですので、最終的な作業を確定しないまま並行して作業を進めてしまうと、二転三転して作業時間が膨大になる危険性があります。
フリクションのトラブルは甘く見てはいけない理由

フリクションを使用することで起こるトラブルは今後も決して甘く見てはいけません。生地・染色・プリント・縫製等、様々なトラブルを経験した中でも、フリクションのトラブルは最も時間とコストの掛かるトラブルと言っても過言ではありません。発覚することで非常に大きな損失に繋がってしまいます。私自身は生産管理としては海外生産でこのトラブルは経験していませんが、物流・検品倉庫会社に所属している時に約6000枚の中国生産のアイテムに対しての修正依頼に立ち会いました。実際に作業を内容を確定するまでに3日、約10人の体制で作業を進行して、さらに近隣の検品会社2社に協力してもらって、作業が完了するまで20日程度かかりました。
トラブル処理のコスト計算
参考
大阪の最低賃金約¥1000×8時間×10人×20日=¥1600000
2社の協力会社の作業 × 7日 = 約¥1400000
なんと、300万円以上のコストでした!
*実際は作業のためのコールドスプレーを数十本購入し、汚れ落としの溶剤、サンドライも数十本に登り、上記以上の請求金額となってしまったと聞いています。メーカーさんは海外工場からこのコストを回収出来なかったようです。
さらにトラブルが広がる可能性
このトラブルに対処する場合は、他の生産トラブルと同様に、海外で生産で起こったとしても納期の関係で急ぎ日本で対処しなければならないでしょう。そのために掛かる費用は非常に大きくなります。海外生産の場合は特にこの金額の回収は非常に困難となり、今後の生産を打ち切って支払いをしてもらえないケースも出てきます。さらに場合によっては、同じ工場で生産したアイテムに対しても同じようにフリクションを使用していないかどうかの懸念も生じます。
ポイント
海外工場にはフリクション使用を絶対に禁止し、このトラブルが日本で発覚した場合は、必要なコストは全額工場が負担するという契約書を作成しておくこと。
*あくまで、どれほどフリクションを使用の禁止を重要視しているかを分かってもらう点でも、契約書のような形で念を押しておくような対処をしておくことをおすすめ致します。
今後も海外生産でフリクションのトラブルが起こりうる可能性

私が過去に携わった時には、国内・海外の全ての自社工場・協力工場に連絡して使用しないように文書にて通知しました。しかし、最近になって今度は中国生産で起こり始めたということは、今後も常に徹底して不使用を連絡しておかなければ、今後は東南アジア生産でも起こる可能性が高いでしょう。温かい地域の工場ではフリクションを使用して、現地で販売するような商品を生産しているかもしれません。おそらくは南方の地域では発覚もせずに問題にもならないでしょう。いつかそういったローカル工場でも日本製の製品を作る可能性はあるでしょう。

服に使ってはいけませんよ!!!


メモ
フリクションペンはお土産としても非常に人気だったようで、ベトナム人の実習生が帰国する際には大量にお土産として持って帰りました。私はこのトラブルを経験済みだったので、帰国する実習生たちに「このペンは熱で消えたように見えるけど、冷えたら浮き出てくるから、服に印するのは絶対にダメですよ!!」と説明しました。ですが、彼女たちが完全に私の言ったことを理解してくれたのか、彼女たちが理解してくれてもお土産として渡した人たちに説明できるのかと考えると、今後現地の縫製工場で使用される可能性を否定することができません。
アパレル生産工場でフリクションを禁止することの周知について

ネット上のブログでは、このフリクションがチャコ代わりとして非常に便利だという紹介されているのを見かけました。確かに個人でのクラフトや限られた人数のお客様用に丁寧に作っていれば、大きな問題にはならないかもしれません。個人で作っていれば、使用した箇所も把握していますでしょうし、ペンの特性も十分に理解して使用できます。
しかし、工場のプロダクトとしては、全員がそのペンによって起こりうるトラブルを十分把握できるとは思えませんし、印がずれることも縫製で隠し切れない可能性も高いです。どの製品も出荷される前には必ずアイロンされて、たとえそのペンを使っていても検品では気が付くことは不可能です。そして何より危険なことは、1枚の発覚がその商品全てのチェックの必要に繋がったり、全数の返品にさえ繋がる恐れがあるからです。”いつ爆発するかもしれない不発弾”のような製品を出荷したくはないでしょう。私の結論は、フリクションはチャコとしては使用しないこと!!ということです。このトラブルが起こらないように願うばかりです。
注意
フリクションシリーズは、アパレル生産のプロダクトレベルではチャコとして使用しないこと!!
アパレルの生産トラブルを防ぐため【拡散希望】
海外で大量に生産されたアパレル製品にトラブルが起こってしまったとき、多くの場合はシップバックするような時間がなく、国内の物流・検品倉庫や工場に作業協力をお願いすることになってしまう事例が多いです。しかし、このトラブルは対処に非常に時間がかかるので、コストとしてもかなり大きな額になってしまうことは間違いありません。さらに日本円で高額になるこのコストを、海外の工場がきちんと支払ってくれるとも限りません。アパレル業界自体に非常に悪影響のあるトラブルですので、特に周知して防止していただきたいと思います。
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