アパレルの生産管理で縫製工程分析を行った方が良い訳【初心に戻る】
工場さんに生産を依頼し、工賃の見積もりを出してもらう時はどんな基準を持っているでしょうか?工程分析をした上で出してもらているでしょうか?去年・一昨年の実績のままのイメージで、工場からの見積もりには取り合えず「安くしてください!!」って言ってるだけではないでしょうか?
工場さん側も、ほとんど社長の頭の中で組み立てて、工程分析として書き出すことまではしてないことの方が多いかと思います。実際その時間で計算すると、工賃が高くなってしまいます。そして、その分析を見せても90%の関係者がそれを理解できないので、それが適正かどうかも理解できないというわけです。


案外耳の痛いところではないでしょうか。ワタシが所属していた自社工場もあるメーカーの営業マン・生産マン共に工程分析が理解できる人は皆無でしたし、「工程が多くなるから工賃がこれだけ掛かります。」と説明しても、「じゃあ高いから他の工場を探して!!」って言われて終了でした。
商売=できるだけ安く作って、できるだけ高く売る ・・・これが基本なのは間違いありません。
工場の選択の余地のあった10年以上前ならそれでも良かったかもしれないが、日本国内の工場は減り続けている。最低賃金は毎年上がり、外国人実習生制度も複雑化と新機構の仕事の停滞で、工場の負担はどんどん重くなっている。これ以上、これまでの実績単価というだけでは、工場も生産してくれなくなるでしょう。
中国の工場でも沿岸地域の人件費が上がっており、効率の悪い小ロットは受注しないケースが多い。東南アジアもまた同じ状況になってきています。
実はワタシは、メーカーで国内自工場の所長として勤務していたのですが、転勤で勤務して数か月で閉鎖が決定してしまい、工場を守ることができずに苦い経験をした人間です。
というと、工場側に立って話をしている。っと思われるかもしれませんが、
分析をして工程数を理解して、ある程度フェアな話し合いの中で「アパレルー工場」の関係で仕事ができないと、業界全体がお互いの足を引っ張って負のスパイラルになってしまってないかと危惧している次第です。
まずは基本のスリット付きTシャツの工程分析で考えてみる
ハンガーイラストとデザイン仕様
これは、非常に基本的な形のスリット付き半袖Tシャツのハンガーイラストです。スリットは二つ折りで、袖口の二本針は丸縫いではなく先に平状態で二本針始末をすることを想定しています。これだけでも工場にはまだ目に見えない部分での選択肢はあります。
それが、 袖を平で縫うか、 丸縫いするか、 ということです。
正直、外見(裏返さない)でこの違いを判断することは難しいです。
着てみて分かる人は?はて、どのくらいいるでしょうか?
Tシャツ(脇ー袖下一気縫い) 工程分析と図解
Tシャツ(袖丸縫い) 工程分析と図解
注意
- 工場の持っているミシンの台数等によって、工程順は変わることがあります。
- 各工程のタイムは実際に計測したものではありません。経験則で記入しています。工場によって
変わりますが、おそらく全くの検討違いということもないと思います。 - 余裕率は、基本的に工程が少ない製品ほど低く設定しますが、二次加工等や色数等の様々な
要素で工場ごとに変動します。 - 1ラインでの売り上げ目標は、工場の人員・地域の賃金差・必要経費等、様々な状況で
変わってきます。 - 工場によっては、どちらが得意・慣れているかで変わってくる場合があります。
縫製工程分析の考え方
- 3人のラインの場合 1日の持ち時間
: 60秒 × 60分 × 8時間 × 3人 = 86400秒 - 86400秒 ÷ ( 工程の合計タイム × 余裕率 ) = 1日の想定枚数
- ラインの目標売上 ÷ 1日の想定枚数 = 見積もり工賃
工賃の見積もりは、基本的には上記のような計算式が成り立ちます。
ポイント
- 工程の合計タイム ・・・ オペレーターの熟練度により変動
- 余裕率 ・・・ 生産ロット 色数 サイズ数 二次加工によるロス等で変動
- ラインの目標売上 ・・・仕上げ・裁断他の人員要素 賃金 様々な必要経費で変動
アパレル生産の工場などの作業現場は、事務職よりもズバリ 時間=コスト
見積もりが合わなかったり、材料が高いから工賃を抑えたい。
アパレルの生産に携わったら、常に降りかかる問題ですね。工場さん側も、これまでのお付き合いや今後の仕事の兼ね合いで、何とか協力しようとしてくれることも多いでしょう。アパレル業界は儲かってはいないので、ワタシもこれまでの経験で何度も人情で仕事をしてもらうことがありました。
工程分析はイメージだけでもOK 時間とコストの関係を頭の隅に入れましょう
先ほどの工程分析で見ていただければお分かりいただけると思いますが、、、
あくまでも例でありますが、、、、
袖丸縫いのTシャツは、脇ー袖下一気縫いのTシャツより、1着につき20秒多く時間がかかっていますね。20秒、長いと感じますか? 短いと感じますか?数十着くらいならさほど時間の長さは気にならないかもしれませんが、、、、
- 20秒差 × 3000枚の生産 = 60000秒
- 60000秒= 3人ラインの約5時間半
- 60000秒= 最も安い地域の最低賃金¥762 × 約5.5時間 × 3名
= ¥12573(福利厚生・光熱費 他含まず) - 60000秒= 脇ー袖一気縫いTシャツ 180枚分の縫製時間
= 工賃¥462の場合は ¥82800の売り上げ
さて、この数字をどうご覧になられるでしょうか? もちろんビジネスでは常にセオリー通りにはいかないものです。ですが、工場に仕事を依頼する立場として、理解すべき点は多いのではないでしょうか。
- デザイン変更で工程が増える。
- 縫い方の指定で、作業時間が増える。
- 品質ネームが間に合わず、後付けになる。
- 生地の不良・プリント・刺繍不良でのパーツ裁ち直し
生産中の変更や確認事項の発生やトラブルは様々ですが、全て時間のロスに直結します。

=短い時間で生産してください 、、、ということのはずですよね。
【結論】 アパレル生産管理は工程分析の基礎は知っておいた方が良い。
事務方であるアパレル生産管理は、工場に時間ロスをさせない段取りを取るべし
生地・プリント・刺繍・縫製・客先の急な変更
多くのトラブルの可能性は否めません。しかし、出来得る限り工場は止めない。時間のロスはさせない。このマインドで仕事をする限り、応えてくれる工場さんは沢山あるはずです。
ファッションそのものって感性の部分があったり、クリエイティブが重要だけれども、プロダクト現場に繋がるお仕事は、正確さや緻密さや計算も重視しなければならないと思います。ワタシはアパレル業界に長年いて、そういった部分が足りないと感じて仕事をしてきました。
生産が上手くいかなくなったときは、初心を振り返って、過去にはなぜ工程分析なるものがあったのかを、見直してみるのもいいかもしれません。
読んでいただき、ありがとうございました。