アパレル生産未経験者に知っておくべき日本国内の縫製工場について
最近インフルエンサーブランドが増えたり、若い方の中にもアパレル製品を作りたいというお話を聞くことがあります。しかし、アパレル生産に全くの未経験の場合に縫製工場を探しても、なかなかマッチングしないということが多いようです。そこで、まずは縫製工場に依頼する前に知っておいてもらいたい日本の縫製工場の現状について解説していきたいと思います。
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日本国内のアパレル縫製工場の近況
日本国内のアパレル生産比率は2017年の時点で僅か2.4%にまで下がっています。
そのため日本の縫製工場は年々縮小、廃業・倒産が増えています。日本にはもう大規模な縫製工場はほとんどありません。日本国内の縫製工場であれば5人から10人前後が小規模、20人~30人程度の工場であれば中規模、50人以上であれば大規模な工場と考えてもいいと思います。工場は都市部よりも最低賃金が安めの地方に多く、従業員の高齢化に加えて人員の確保も難しくなっているため、外国人技能実習生を受け入れている工場が多数あります。
1.日本国内のアパレル縫製工場の仕事とは
日本のアパレル生産は細かく分業されています。その中で縫製工場とは、基本的に【縫製をして製品にすること】を仕事としています。
生地を裁断して、縫製してアイロン仕上げ、検品、出荷という工程が縫製工場での一連の作業になります。縫製とは、本縫い・オーバーロック・二本針ミシン・3本針ミシン・ボタンホール・閂止めミシン等、服を組み立てる作業に使用するミシンのみを所有していることが多く、刺繍・プリント・染め加工などは別の工場となります。またポロシャツの衿やトレーナーの裾・袖口のリブなども横編み機という特殊な編地を作れる専門の工場があります。
2.日本国内のアパレル縫製工場にできないこと
2-1.パターン作成はできない
多くの縫製工場では設計図となるパターンを作成するパタンナーはいません。
さらに言えば工場内の従業員はパターン知識もなく、パターンを引くこともできない人がほとんどです。これは仕事のポジションとしてパターンは企画と大きく関わる部分であり、同じブランドであれば基本となるシルエットをターゲットとなる人の体型にある程度統一している必要があります。そのため逆に縫製工場側にパターンまで任せると、同じブランドなのに製品によってシルエットにバラつきが出てしまうことになりかねません。
まれにCADを取り入れている縫製工場もありますが、型入れ(裁断のためのパターン配置)や独自に生産しやすいように縫い代の操作などに使用しています。パターンの専門家として縫製工場で仕事をしていることは珍しいケースです。
2-2.刺繍・プリント・染色加工は別工場
まれに刺繍機が一部のプリント機を持っている縫製工場はありますが、刺繍やプリント・染色加工などは二次加工と呼ばれて縫製工場ではほとんど行われていません。縫製工場内で刺繍・プリントが対応できるのは、サンプルやごく小ロットの生産となります。
これはアパレルのデザインが非常にバリエーションが多いために、特殊な刺繍機などは専門知識のある職人がいる会社が専門で行ったほうが効率よく、様々な加工に対応するためには機械も人員も多数必要になるからです。またシーズンの流行によりデザインに偏りが出てくるため、刺繍がない、プリントがないデザイン商品が多い場合は、設備が動かないことになってしまいます。
私がいた工場には刺繍機がありましたが、シンプルなワンポイント刺繍全盛の時代には非常に活躍していたそうです。しかし、単純な刺繍だけのデザインが少なくなり、刺繍を使用しないアイテムも多くなると、専門の職人の仕事が確保することができなくなったために、刺繍専門の工場に委託するようになっていきました。複雑なプリントや染色加工は、そもそも全く違う設備が必要であるため専門の工場に委託することになります。
海外の大規模工場には、縫製工場とプリントや刺繍もできる一貫工場があります。そのような一貫工場を動かすには、大量の製品を二次加工のバランスを考えて生産し続けなければ利益が出ません。日本ではコストが合わないため大量生産が海外へ移っていくとともに生産を分業し、一貫した生産が出来る工場はなくなっていきました。
2-3.生地手配はできない
「生地手配はできない。」と言うと語弊があるかもしれませんが、基本的に生地の手配はメーカーや商社が行うことが多いです。アパレル会社は最終的に生地+資材+縫製加工=製品となった金額を支払って製品を仕入れます。もし生地を仕入れるならば、その代金は縫製工場にとって非常に大きな負担です。
工場で手配するものとしては、服を組み立てるのに必要な資材。縫製用の糸、接着芯などまでが一般的です。しかし、接着芯も生地の厚みや風合いによって指定したいのであれば、メーカーや商社が手配している場合が多いです。
3.アパレル縫製工場は得意分野が分かれている
知らない人にとっては、縫製工場なら衣服に分類されるようなものは何でも縫えると思ってしまいがちです。ですが、アパレル縫製工場は得意な分野が細かく分かれています。得意なアイテムや受注の多いアイテムに合わせてミシンの台数などを設備として揃えてゆきます。そうすることで、得意アイテムに対して効率がよく、工賃も抑えて生産することができるようになります。
「ミシンはあるのになぜ縫えないのか?」っと疑問に思う方もおられると思いますが、縫えるのだけれど効率のよい生産ができないので最適な工賃では縫えないと言った方が正しいかもしれません。もちろん、それによって職人の慣れが出てきてしまうので得意と不得意のアイテムが出てきてしまうのです。そして例えばAの工場では「1000円」の工賃で出来たのに、B社では「1500円」の工賃となる理由としては、得意不得意やこの設備の違いによる部分も大きい。縫製工場の設備によって依頼するアイテムの見極めは重要です
フラットシーマの事例
フラットシーマは水着やインナーに使用されることが多いミシンなのですが、カジュアルでもステッチの代わりにフラットシーマを使用するデザインにしたいという要望があることがあります。基本的にジャケットやコートを得意とする工場には不要なミシンなので購入しません。その後に安定して稼働する当てのない設備にお金をかけるのは無駄となってしまうからです。
得手不得手で保有ミシン台数が少ないと、その工程がボトルネックとなり生産数が上がりません。時間がかかるということは工賃が上がることに繋がります。例えばフラットシーマを1台所有している工場の場合、様々な部分に1台のフラットシーマで対応しないと行けないため、効率が上がることはないのです。
4.縫製工場とサンプル工場との違い
量産をメインに最適化していくアパレルの縫製工場とは逆に、サンプル工場ではなるべく様々なアイテムに対応できるように、特殊ミシンを含む多くの種類のミシンをまんべんなく取り揃えていることが多い。これは数着のサンプルを縫製するため、長時間同じ作業をすることを想定した効率化する考え方とは違ってきます。1着1着に対する縫製時間は長く掛かったとしても、数着ならば短納期で対応するための工場ということになります。ただし、もちろんデザインによっては使用しないミシンを多数所持していて、設備にコストが掛かっていることがサンプルの工賃が高くなる理由の一つとなっています。
5.アパレル生産を効率よくするためには
アパレル生産を効率よくするためには、工場の特徴を理解して依頼することが双方のメリットになります。
工場は自身の有力取引先などに合わせて、受注数の多いアイテムに応じて設備の最適化をしていきます。そうすることで効率を上げて、工賃を安くする努力をしてきています。設備を沢山揃えていることは魅力的ですが、めったに使用しない設備を購入することはむしろ工場のランニングコストを上げてしまい、結局は工賃に反映させなければならなくなります。縫製工場側ももちろん様々なアイテムを生産でき、多くのことに対応できるように努力はする必要がありますが、設備を理解して依頼するという努力も必要ではないかと思います。
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